ネタ帳|コメント|ゆうの苦し紛れのネタ帳(by ゆう)
<< みんなのネタ帳
<< ゆうの苦し紛れのネタ帳(by ゆう)
花葬
by
ゆう
とある海沿いの町に愛を知らない少年が一人。
家族は少年がまだ記憶もない頃に空に還った。
何やら町中が国に対してデモを行い、その際に犠牲になったらしい。
デモ運動の原因は今や町中の誰もが覚えていない。
忘れてしまっているのだ。喧騒と怒号に紛れてしまった。
それゆえか、少年は今まで記憶の中で涙を流したことがなかった。
人に笑顔を見せたことも記憶の中にはなかった。
そんな少年には誰にも教えていない秘密基地があった。
町のはずれの雑木林を抜けるとそこは断崖絶壁の堂々たる景色。
そこらから見える海から空への青のグラデーションが少年は大好きだった。
よくスケッチもしたし、たくさん寝た。潮の匂いを心地よい風が運び少年は夢を見る。
少年は一人だった。家族の温もりなどもとから知らない。
一人が当たり前だった。だから寂しさや、孤独はそれほど感じなかった。
そんなある日、少年はいつものように秘密基地に向かった。
「今日は波と戯れる海鳥をスケッチしよう。」
雑木林を抜け、少年は深呼吸をした。
おや?そこにある風景に少しの変化があった。
不思議そうな顔をして少年は「それ」に近づいた。
そこに在るのは一輪の花だった。
白い花。潮風に揺れる白い花。
その白は海と空の青の中でくっきりと存在を主張していた。
少年は計画を変更し、その花をスケッチすることにした。
花なんて描くのは初めてだから中々、上手く描けない。
何回も消しては描いてを繰り返し、繰り返し、気付けば日は暮れていた。
それからというもの、少年はその花をまるで友達のように慕った。
言葉は返ってこないが、話しかけたり、一緒に寝たりもした。
身振り手振りで花に向かう少年。 花の隣に座りパンをほおばる少年。 花と一緒に地平線を眺める少年。
いつしか少年の寝顔は安らぎと安堵で、とても優しい笑顔になっていた。
初めての友達に、少年の生活は大きく変わった。
まず、よく町に出向くようになった。
なにか面白い話を仕入れるためだ。あの花が喜ぶような面白い話。
それまで無口だった少年が、いつの間にか町中の人気者になっていた。
しかし、花のことは誰一人にも話さなかった。
よく晴れた日だった。
あまりにも晴れた空は悪戯なのか夕立の雲を町へ運んできた。
堰を切ったかのように町は雨に襲われた。
激しい雨。肌を刺すような冷たい雨。
少年は走って、秘密基地へ向かっていた。
「花を守らなくちゃ、僕が花を守らなくちゃ。」
雑木林は雨で視界が悪く、また地面もぬかるみ、少年は何度も転んだ。
何度も転んでは、起き上がり。転んでは起き上がり。
よくやく雑木林を抜け、秘密基地へと出ると白い花はすっかり弱っていた。
豪雨に襲われ、花びらはほとんど散り、その芯はもう少しで折れんばかりの勢いだ。
少年は再び走り出し、花をその身体全体で包み込むように覆いかぶさった。
目も開けられないほどの雨。あんなに穏やかだった波も狂ったように荒れていた。
どれほどの時間が経ったか。
夕立は止み、町はいつしか静かな夜に包まれていた。
少年は起き上がり花を見た。
すっかり花びらを落とし、身体が折れてしまった花。
少年はその花を手のひらに乗せ
少年は静かに泣いた。時には大きな声で泣いた。
生まれて初めての涙を流した。
その花は少年に初めての笑顔を与え、喜びを与え、涙を与え、そして孤独を与えた。
「守れなくて、ごめんね。」
「いいや、大丈夫。君に会えて良かったよ。ありがとう。」
少年は泣き止み、時間の流れに身を委ねた。
海はそに浮かぶ大きな月を映し、風は波の奏でる音を静かに指揮する。
少年は気付いた。僕は守っていたんじゃない。
守られていたんだ。
少年はその花を燃やした。小さな煙が空へと舞う。
よく晴れた夜空だった。
2008/01/26 18:59:41

このネタ帳へのコメント
by
莉遠
2008/01/27 01:24:34
最初は、ラルクの花葬のことなのか
と思いつつ、クリックしてしまった悪い子です(帰れ
これは小説かな? 凄く綺麗な文章を書かれるなぁーと
思ってまじまじと見てしまいましたよぉぉ
歌詞の上手い人は、小説も上手いんだなぁと
感動いたしましたww